研究概要 |
接着剤層中の疲労き裂進展に関する研究の最終年度として,モードI荷重下で,き裂の進展形態が凝集から界面へと変化する「き裂進展モード変化」に値点を当てて,研究を進めた.その結果,疲労試験では,き裂が、一旦停留した後,き裂の2次進展が生じることを世界で初めて発見した.一端き裂が停留した時点を「pseudo-threshold(PT)」と名付けた.エネルギー解放率範囲ΔG_Iの大きいところでは凝集破壊,同解放率の小さいところでは界面破壊となる.途中,混合破壊形態が出現する.き裂の2次進展挙動を確かめるため,絶乾状態での疲労試験を行う必要がある.そこで,100%ピュアーな窒素ガス環境下で疲労試験を行い,この2次進展の発生原因として接着側面端部からの水(水蒸気)の進入が強く影響することを明らかにした.すなわち,絶乾状態ではPT以降,き裂の進展はなく,PTが疲労限となる. 破壊形態の変化に及ぼす湿度の影響は、高ΔG_I領域で顕著であり,大気中の本分は高ΔG_I領域での界面破壊の割合を増加させ,低ΔG_I領域では界面破壊率に及ぼす試験湿度の影響は小さくなり,ΔG_I値の影響が見られる.また,ΔG_I一定条件の疲労試験を行い,破壊形態の変化には大気中の水分及びΔG_Iの変化がそれぞれ影響を及ぼしている.これにより,高ΔG_I領域では,大気中の水分は試験片端部に界面破壊を引き起こす要因となり得るが,その後の界面破壊の進展はΔG_I値の変化に依存する.逆に低ΔG_I領域ではΔG_Iが破壊形態を変化させる支配的因子として作用するが,大気中の水分によって界面破壊の割合は増加することを示した.最後に,ΔG_Iの変化に伴い破壊形態が変化するメカニズムを明らかにするため,荷重点引張速度を変えて破壊じん性試験を行なったところ,引張速度が速い場合には凝集破壊,遅い場合には界面破壊が支配的となることを見出した.FEM解析によりエネルギ解放率G_Iとき裂先端開口変位CTODを関連付けることができ,ΔG_Iの変化に伴う破壊形態の変化が,き裂先端の開口速度の影響,つまり接着剤の速度依存性に起因していることも明らかにした.
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