近年、各種機器・機械構造物の余寿命評価や信頼性確保に対する社会的要請が一段と高まるとともに、経済的理由からこれらの実機に対する寿命延伸技術の確立が強く望まれている。これは設計時の耐用年数を越えて機器・構造物を長期間使用することにつながるもので、部材の長寿命域における疲労特性が重要な課題となる。 この観点から、高炭素クロム軸受鋼、クロムモリブデン鋼およびニッケルクロムモリブデン鋼等の高強度鋼に対する長寿命疲労特性を明かにするのが本研究の主たる目的である。とくに本年度得られた成果を要約すれば以下のとおりである。 1)各種高強度鋼について、S-N曲線が10^5〜10^6付近の繰返し数で水平に折れ曲り、一旦明確な疲労限度が現れた後、N=10^7付近から再び低下するS-N特性が報告されている。独自の疲労試験機を開発し、N=2x10^9の長寿命域まで疲労試験を行った結果、軸受鋼についてこの特徴が明瞭に検証された。 2)全破断試験片についてSEMで破面観察を行った結果、表面起点型破断と内部起点型破断に明確に区別され、内部起点型破断の際はいずれも明瞭なフィッシュアイが観察された。また、各破断形態ごとに固有のS-N曲線があって、両者がS-N座標上で別の位置にずれて現れる特徴があり、この特異な疲労特性を二重S-N特性として解釈すべきことを明かにした。 3)表面起点型破断および内部起点型破断の各寿命成分から構成される混合分布を基礎とし、各分布母数の応力依存性と生起確率の応力依存性を組合せ、広範な寿命域における高強度鋼の複雑な寿命分布特性がよく説明できることがわかった。
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