研究概要 |
本研究では,走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope:SPM)内引張り試験装置を新開発するとともに,単結晶シリコン(Si)薄膜,ダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜,パーマロイ薄膜から成る微小寸法試験片に対するマイクロ引張り試験を実施し,同薄膜材料の機械的特性評価を行った.具体的には,SPMを引張り試験における伸び測定装置として用いることにより,マイクロ引張り試験法における欠点であった歪み測定を高精度に実施し,ヤング率を直接測定する手法を確立した.本研究で開発した引張り試験機は,微小送り用PZTアクチュエータ,PZTハウジングケース,小型ロードセルおよび差動変位計から構成されている.とくに,既存のSPM装置寸法の制約上,アクチュエータ自体を試験片軸上に設置することが極めて困難であったため,新たにヒンジ構造を有するハウジングケースを新開発することにより,この種の問題を解決することに成功した. 試験片軸方向が[110]方向を有する単結晶Si薄膜試験片に対して,SPM引張り試験を実施した結果,ヤング率160GPaを得た.さらに,SPMの伸びデータをスプライン補間することにより得られたヤング率は,170GPaであった.バルクSiの[110]方向のヤング率が169GPaであることから,SPM引張り試験で高精度にひずみ測定が実施されたと言える.また,Si薄膜試験片の引張り強度は900MPa〜1.2GPaを示し,バルクSiの約2〜3倍であった.これは,試験片寸法の減少に伴って,試験片に微小欠陥が存在する確率が減少することにより,破壊強度の増加が引き起こされたと考えられる.一方,DLC薄膜:パーマロイ薄膜試験片に対する引張り試験も併せて試みたが,成膜条件の不具合から詳細なデータは得られなかった.同薄膜の機械的特性については,今後の課題として継続研究する予定である.
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