研究概要 |
高齢化社会が進むに伴い,変形性膝関節症の増加が整形外科領域では大きな問題となっている.変形性膝関節症の発生機序や障害の進行過程には不明なことが多く,特に膝関節周辺の力学的環境が関節症に及ぼす影響が重要であるといわれている.これまでの膝関節に関するバイオメカニカルな研究では,関節軟骨および軟骨下骨単体について,それぞれ独立に扱われた研究が殆どであり,軟骨下骨の直接的な検討や軟骨と下骨との相互作用について調べた例は見当たらない.そのようなことから本研究では,ヒト脛骨関節を対象に,その関節軟骨と軟骨下骨の力学的特性についてバイオメカニカルな新たな見地から明らかにすることを主な目的として平成11年度から行っている. 本研究では,関節軟骨については,ニードル法によって軟骨の厚さ分布を測定するとともに,自作した押し込み試験機および微小試験片による強度試験装置を用いて,軟骨の力学的特性を明らかにした.軟骨下骨については,走査型超音波顕微鏡,微小硬度計および微小試験片による強度試験装置により,骨の弾性率分布と強度分布を求める手法を開発した.また,最近開発されたpQCTを併用することによって,下骨の形状と骨密度を明らかにした. 変形性膝関節症患者から摘出したヒト脛骨関節を対象に上記の方法を用いて軟骨および下骨を対象に検討を行った結果,以下のようなことが明らかとなった.(1)脛骨膝関節面の軟骨が損傷、変性している部位では,軟骨の見かけの剛性が高い.(2)軟骨下骨は部位によりその骨密度および弾性率に差異がみられる.(3)関節軟骨の損傷がみられる部位では,軟骨下骨の弾性率が高くなる傾向がみられる.(4)軟骨下骨の弾性率と骨密度との間には正の相関が認められた.
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