研究概要 |
角度は,1回転(360度)を分割することにより,あるいは精密に決定された2個の寸法を用いて三角法によって決定されるが,角度測定に対しては適当な実用基準が要求される.実用基準としては円周基準であるポリゴンミラー,単一角度基準である角度ゲージと角度定規,などがある.また任意の角度を割り出すために割り出し盤などが利用されている.また最近では,ロータリエンコーダなどが産業機械などに組み込まれつつある.以上はいずれも人工的な基準であり,精度の高い基準を製造する場合にはコストや校正の面で問題が伴うことが多い. 結晶格子表面の原子配列は,結晶自体が無応力でかつ格子欠陥がなければ,高い2次元的な周期性と直線性を持つものと考えられる.この場合,結晶の種類が決まれば,ある原子配列(=結晶方位)とほかの原子配列のなす角も一定で安定し,かつユニバーサルなものと考えられる.したがって,原子配列間のなす角度を認識し抽出できれば,これは一種の量子化された(あるいは天然物起源の)単一角度基準となりうる.さらに,原子配列の高い直線性と2次元的周期性を組み合わせれば,デジタル化角度基準を作製できる可能性がある.走査型トンネル顕微鏡(STM)は,結晶格子表面の原子像を空気中でかつ実時間で捕捉可能である.したがって結晶格子の原子配列そのものを角度基準,STMを検出へッドとすれば,結晶方位間のなす角を基準とする単一角度基準およびデジタル角度基準を構成可能である.本年度は,結晶格子(グラファイト)とSTMを組み合わせたデジタル角度基準の基本検討と設計を行った.以下の知見を得た. (1)高純度グラファイトではおよそ10μm超の領域にわたって格子欠陥や原子ステップのないものがあること:この範囲で原子1/5個分の角度を検出できればおよそ1秒の分解能を達成可能である. (2)直線基準として平行ばね型ステージの直動性を用いること:設計・製作をうまく行えばストローク10μmにわたって真直度が原子1/50個分のステージが可能である.これを基準として結晶配列の角度割り出しを実行することにした.
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