研究概要 |
慣用のドリルに比べ,心厚3倍,溝断面積約半分の本ドリルによる穴あけで,ステンレス鋼SUS304,工業用純アルミニウムでは長ピッチ形切りくずは生成されやすい.これは被削材の延性が大きいことによる.しかし,適切な切削条件から高速あるいは重切削条件になると切りくずの排出が悪くなる.純アルミでは切りくず厚さが増大して排出不能,穴あけ停止.SUS304ではドリル摩耗が急増して穴あけ不能となる.純アルミの場合ドリルと切りくずとの凝着性が増し,すくい面での流出抵抗が過大になることによる.SUS304では凝着性が増し切りくず厚さが増大すると,せん断領域での加工硬化を増大させ,切れ刃の損傷を生じ,切りくずの凝着とともに切りくず流出抵抗を増大させ,せん断領域での加工硬化を一層増大させる.このような連鎖反応的機構に加え切削温度上昇で切れ刃が急速に摩耗,消失し穴あけ不能に至る.純アルミ,SUS304ともにドリル溝面にこれらと親和性の低いコーティング処理が望ましい.TiNコーティングは目的を満たさない.A2011,A2024アルミ合金では長ピッチ形切りくずは生じにくい.低延性の快削合金であり,高い熱伝導率で切削温度が上がりにくいためである.切削温度が300℃を越すと長ピッチ形切りくずが生じる.A5056も似た特性であるが切削温度約160℃で長ピッチ形切りくずが生じる.しかし,さらに温度が上昇すると延性急増で切りくず厚さが増し,穴あけ停止となる.SCM440の穴あけ機構はS50Cとほぼ同じである. 超硬合金製本ドリルによるS50Cの高速穴あけでは,切削温度は上昇するが長ピッチ形切りくずは生じにくい.切りくずに作用する遠心力により切りくず先端部の円すい形への成長が妨げられ,遠心力直接の作用とともに摩擦力が軽減され,切りくずが破断しやすくなるためである.
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