生体分子モーターの運動は、2つの相対する蛋白質の滑り合いによって起こることが知られている。蛋白質の結晶化により、原子分解能で構造が明らかにされ、力発生のメカニズム解明の最終段階に至っている。しかし、これまでの多くの研究にも関わらず、その分子機構はいまだに謎である。その1つの理由は、ミオシン分子モーターで発生された力がどのようにその相補的なレールとなるアクチン線維に伝達されるのかについてまったくわかっていないことにある。2つの物体が滑り合うからには、摩擦が伴うことは、容易に想像される。この摩擦によって、滑り速度はコントロールされている可能性がある。この可能性を明らかにすることと、力発生機構を明らかにすることとは同義語である。なぜならば、発生力と摩擦力とがバランスして速度一定で滑るからである。摩擦力のメカニズムを明らかにしない限り、モーター分子の運動のメカニズムを解明したことにはならない。 本研究の究極的な目的は、アクチン線雑をガラス基板に配向固定する新しいテクニックを開発して、アクチンとミオシンの配向制御された表面間の相互作用力を測定することにある。この方針の下に、固定法の確立を果たすとともに、アクチン線維の溶液内での秩序構造化などの物理化学的な研究も行いアクチン線維の諸特性を明らかにして、将来の応用への可能性を検討した。また、新たな運動系を用いた摩擦実験から得られた実験結果に対して摩擦の本質、摩擦のモーター分子系における役割について明らかにするため、さらに理論的な研究へと発展させた。現在、アクチンモノマーの配向固定を行い、水晶振動子マイクロバランスで吸着過程や吸着密度の測定を行なってアクチンの配向固定の評価を完了し、その応用へと発展しつつある。
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