研究概要 |
人工心臓を含む機械的循環補助システムの圧・流量関係は管路計の状態把握の指標として一般的に利用されるが,その関係は要素形状のみならず血液の物性にも依存するため,血液の流動物性に関する情報が必要である.ところが,このような観点からの乱流状態における血液流動の資料は少なく血球成分の影響に注目した基礎研究が必要であると考えられる.昨年度までに,基本的な流れとして円管内流れを対象とし,乱流状態の摩擦損失量をニュートン流体と血液で比較した.山羊血液の粘度をCassonの式により定義した場合,ニュートン流体よりも円管内乱流の圧力損失がわずかながら低減すること,さらに,その低減の程度は血球濃度には依存せずほぼ一定であることを示した.この結果から,ニュートン流体と比較した場合圧力損失が低減する原因は赤血球のみでなく,血漿中の蛋白をはじめとする血漿成分である可能性が示唆されたため,血漿蛋白成分による影響を実験的に調べた結果,γ-グロブリンでは生理食塩水に対して,粘度が上昇しているにも関わらず有次元における圧力損失は変化がなく,その結果として管摩擦係数が減少した.本年度は,我々が開発を進めてきた遠心型血液の慢性動物実験評価において,モータ駆動信号(回転数,電力)からポンプ流量を間接的に計測する方法を実際に適用し,測定精度に対して血液粘度の変化が及ぼす影響についての検討を行なった.回転数が既知の場合,モータ消費電力とポンプ流量はほぼ線形とみなすことができる関係にあり,流量が生体心の動きに対して大きく変動する場合にも測定結果は十分な精度で追従していた.検討を行なった慢性実験においては,血液ポンプ装着術後,血球濃度が約20〜40%の範囲で変動し,それに伴って血液の粘度も変動した結果,本手法にて検討したポンプ流量値と実測値の誤差は時間的に大きく変動していた.血液粘度を計測し,あらかじめ取得しておいた関係式の補正を行なうことで誤差を抑えることが可能であった.ただし,血球濃度による粘度変化の補正効果と比べた場合,昨年度検討を行なった血漿蛋白レベルでの補正により修正できる誤差レベルは実用的にはほとんど問題とならない程度であった.
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