研究概要 |
氷板の下面融解実験 前年度(平成11年度)は氷板が上面から融解するときの実験であったが,本年度は氷板が液層の上部に置かれて下面から融解するときの実験を行った.水溶液を入れる容器に所定の濃度の塩化カルシウム水溶液を所定の深さまで注入する.次に容器の上部にアクリル枠で補強した所定の厚さの氷板をのせて融解実験を開始する.氷板は融解面の温度降下を伴いながら自発的に融解していくが,氷板の内部や液層各部温度の時間経過を正確に測定し,温度変化の挙動を作図する.融解量は,所定の融解時間が経過したら,融解実験を停止して氷板を容器から離し,これの質量を精密天秤で測定して平均的な融解量を求める.このような一連の実験を繰り返して行い,時間と平均融解量の関係を把握する.合わせて,水溶液に微量の粉ミルクを混入させ,これにスリット光を照射させて液層内の対流の可視化観察を行った. 結果として,氷板が下面から融解するときは,融解水の濃度は大変薄いので密度が小さくなって軽くなる.したがって,融解水は氷板下面近傍に蓄積されて次第に濃度境界層の厚さが厚くなっていく.本研究の融解の駆動力は融解面近傍の濃度勾配によるので,この境界層が厚くなると濃度勾配がゆるくなって融解速度が次第に小さくなっていくことが認められた.この現象は前年度の氷板が上面から融解するときの融解量より大きく減少し約50%以下になった.そして,融解液層内の自然対流には激しい濃度差対流が見られず,主として穏やかな温度差対流が支配的であり,これが次第に緩慢になっていき,液層内の位置によっては,ほとんど停滞している領域も可視化観察によって認められた. 実験と平行して,数値解析も行って,融解挙動を吟味した.氷板が下面から融解する場合は,実験と解析は良く一致したが,上面から融解する場合は,実験の方が,数値解析結果よりも約40%程度融解量が大きくなった.これは,氷板が上面から融解する場合は大きな濃度差浮力のため,激しい細かい対流らしきものが発生するためであり,層流に基づく数値解析ではこのような複雑な融解挙動を予測することは難しく,今後の課題としてさらなる研究継続が必要であると思われる.
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