バイオインダストリーの基盤技術の一つである、細胞や組織などの生体材料の凍結保存におけるプロセスの最適化のためには、熱工学的手法により熱・物質輸送現象を基礎的に解明する必要がある。本研究では、擬似生体組織や生体組織に対する凍結保護物質の拡散現象を、核磁気共鳴撮像法(MRI)を用い、無侵襲(非接触)・実時間で直接計測する方法を確立し、マクロ拡散特性を求める共に、拡散・浸透に関する組織のミクロ構造との連結を行う。 本年度は、物質拡散の媒質として水溶液と擬似生体組織である寒天、および、代表的な細胞膜透過型凍結保護物質としてジメチルスルホキシドとグリセロールに対して研究を遂行した。 1)水溶液の場合: ケミカルシフトイメージング(CSI)法により、水溶液中の凍結保護物質分子のみを選択的に画像として捕えることができ、水溶液中の凍結保護物質濃度と画像強度の校正曲線に基づいた濃度計測法を確立した。非定常一次元濃度分布の測定結果に基づいた逆問題解析より拡散係数の濃度依存性を明らかにした。 2)擬似生体組織(寒天)の場合: 水溶液の場合と同様に、CSIにより、寒天に含まれる水溶液中の凍結保護物質分子のみの選択的画像化とその濃度計測が可能であり、寒天濃度(溶解水溶液に対する粉末寒天の重量割合)に対する凍結保護物質の見かけの拡散係数を求めた。さらに、寒天中の水溶液の体積分率と緩和時間による画像強度の減衰を考慮することにより、濃度・画像強度の校正曲線が、水溶液の場合の校正曲線から算出可能であることを見い出した。 本年度、確立された本計測法を、次年度、実際の生体組織に対して発展させると共に、そのマクロ拡散特性を組織内ミクロ構成要素の物質透過性と連結させる予定である。
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