バイオインダストリーの基盤技術の一つである、細胞や組織などの生体材料の凍結保存におけるプロセスの最適化のためには、熱工学的手法により熱・物質輸送現象を基礎的に解明する必要がある。本研究では、擬似生体組織や生体組織に対する凍結保護物質の拡散現象を、核磁気共鳴撮像法(MRI)を用い、無侵襲・実時間で直接計測する方法を確立し、マクロ拡散特性を求める共に、拡散・浸透に関する組織のミクロ構造に基づいて考察を行う。 平成11年度には、物質拡散の媒質として水溶液と擬似生体組織(寒天)、および、代表的な細胞膜透過型凍結保護物質としてジメチルスルホキシド(DMSO)とグリセロールに対して研究を遂行した。 1)水溶液の場合: ケミカルシフトイメージング(CSI)法により、水溶液中の凍結保護物質分子のみを選択的に画像として捕えることができ、水溶液中の凍結保護物質濃度と画像強度の校正曲線に基づいた濃度計測法を確立した。非定常一次元濃度分布の測定結果と逆問題解析から拡散係数の濃度依存性を求めた。 2)擬似生体組織の場合: 1)と同様に、寒天に含まれる水溶液中の凍結保護物質分子のみの選択的画像化とその濃度計測が可能であり、寒天濃度に対する凍結保護物質の見かけの拡散係数を求めた。さらに、寒天中での水や凍結保護物質分子の縦・横緩和時間の減衰とそれによる画像強度の減衰割合を考慮することにより、濃度・画像強度の校正曲線が、水溶液の場合の校正曲線から算出可能であることを見い出した。 平成12年度には、昨年度の濃度計測法を、生体組織(鶏の肝臓)内のDMSOの拡散現象に適用した。 3)生体組織の場合: 組織中のDMSO濃度・画像強度の校正曲線、組織内でのDMSOの非定常一次元濃度分布の計測、および、その結果に基づいた逆問題解析により見かけの拡散係数を求めた。その拡散特性を組織の構成要素であり物質拡散の抵抗体である肝細胞や細胞間質などのミクロ構造の観点から考察した。組織中の水溶液の体積割合、水とDMSO分子の緩和時間による画像強度の減衰割合に基づいて、濃度・画像強度の校正曲線が水溶液の場合の校正曲線から算出可能であることを示した。さらに、組織内の水分子の緩和時間からDMSOの緩和時間を推定する方法を提案した。
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