研究概要 |
食品の凍結保存は,原理的には,低温化と活性水分の低減により品質の長期維持を図るものであるが,凍結過程で各種の機械的損傷や膠質的損傷を伴う.したがって,食品凍結においては,(1)マクロな伝熱現象,(2)細胞内外での氷晶の偏在形成や,細胞膜を通した水分移動による溶液の濃縮と細胞の収縮などのミクロな現象,(3)これらの状態のもとでの組織・組成の物理・化学的変化,の階層的な取扱いが必要であり,最終的に(4)色調,風味,テクスチャー(食感)などの官能評価へと繋がる.本課題は以上の観点に立って進めるものである.本年度は主としてマグロ魚肉の凍結過程のCryo-SEM観察および凍結・解凍後の官能性評価を行うとともに,前年度確立された凍結モデルによる数値計算を行い,(2)と(3)の連関を追究し,以下の成果を得た. 1.食品の品質を表す有力な指標である筋原繊維タンパク質のCa^<2+>-ATPase活性値を測定する手法が確立された. 2.緩速冷却の場合には,凍結が進むにつれてCa^<2+>-ATPase活性値が低下し,また解凍後のドリップ(液汁)量が多くなることが判った.これより,食品の品質維持の点がら急速冷却の有効性が実験的に確認された. 3.ミクロ挙動として,(1)筋繊維の脱水率,(2)筋原繊維の脱水率,(3)氷晶径,(4)筋繊維外の凍結固相率を考え,凍結損傷との連関について検討した.その結果,筋繊維の脱水率がタンパク質の変性度を,また筋繊維外の凍結固相率がドリップ量を表す有効な指標となることが明らかにされた. 4.人工細胞膜を用いた細胞凍結のシミュレーション実験を行い,食品中の氷晶形成を予測できる解像度の高いモデルを構築するための基礎的知見が得られた.
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