本研究は、大型組織細胞の凍結保存技術の確立を目標にして、伝熱制御と超音波場及び電場による凍結・解凍過程の能動的な制御技術の開発を行う。本年度は、観察・計測が容易な一次元的小型試料を用いて凍結・解凍実験を行い、氷晶の成長開始温度、成長速度、成長形態、試料内の流動・伝熱特性等に及ぼす超音波の影響を調べた。研究の経過とこれまでに得られた知見を以下に述べる。 (1)超音波の周波数・強度を変化して印可できる凍結・解凍実験装置を設計・製作し、微細熱電対による試料の温度分布測定やディジタルマイクロスコープとビデオ解析装置による凍結・融解挙動や生体内部流動の観察を行った。 (2)製作した実験装置を用いて、流動中のフロリナート冷却液に浸積したタマネギ表皮細胞の凍結挙動を調べた。その結果、超音波振動の印可により超音波の強度がある値を越えると凍結温度が約5℃上昇することが判明した。また、顕微鏡観察により、超音波振動によるフロリナート冷却液のキャビテーション気泡が凍結開始時の氷核生成に関係があるような画像が得られた。この現象について、さらに詳細な現象観察を継続しているが、決定的な因果関係を示すには至っていない。 (3)超音波印可により、タマネギ表皮細胞内の強制流動現象が観察されたが、全細胞均一ではなく、細胞毎にその流動の程度が異なっていた。この現象を凍結制御に応用するには場所的に流動制御を可能にする必要があるが、当面は温度分布の2次元的測定を行い、この現象による局所的な凍結制御の可能性を調べる予定である。 (4)本年度は、電場による凍結・解凍制御の実験準備を行ってきたが、次年度には実験に着手する予定である。
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