研究概要 |
まず,現実の機械装置に現れるカオス的動力学は,確率的なモデルにより表現されるべきであることを理論・実験の両面から論じた。広く知られるリアプノフ指数は,局所的拡大率と呼ばれる局所量の長時間平均であるが,この局所的拡大率の確率密度関数や,フラクタル次元などのスケーリング指標を用いて,決定論モデルのカオス,確率論モデルのカオス,実験装置(人為的ノイズ源なし)のカオスの3者を比較検討し,実験装置のカオスの性質を忠実に再現するのは,決定論モデルではなく確率論モデルであることを,理論,実験の両側面から示した。 さらに,このような確率システムに生じるカオスのパラメータ分岐を理論・実験の両面から議論した。まず,確率項の出現によって確定系のカオス分岐がどのように変化するかを,中立安定点(リアプノフ指数の零点)の消失として定量的に捉えた。つぎに,抽出された中立安定点近傍の挙動を,情報次元,スペクトル分布関数により定量的に特徴づけた。その結果,確率システムのカオスのアトラクタは,中立安定点近傍において概周期励振を受ける確定系の非カオス的ストレンジアトラクタによく似た性質を示すことを定量的に示した。また,確率項の有無によるモデル化誤差は,安定な挙動(リアプノフ指数が0に近い)ほど大きいことなど,確率システムに生じるカオス特有の性質を明らかにした。 以上の研究成果を,全3報の雑誌論文として発表した。
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