研究概要 |
顕微鏡下の作業では作業空間が狭い事から接触型のツールを外部から導入するのに制約がかかる.このため,対象にも依存するが,数十ミクロン前後の大きさの対象に対しては接触型と非接触型を組み合わせた方法が望ましい.特に直径が数ミクロンオーダーの微生物の操作では,接触型では対象物の姿勢操作が極めて困難になる.しかしながら,このレベルの細胞は静電気力や光ピンセットが有効に利用できる場合が多い.特に,対象物の姿勢制御には回転電界により,誘電体に発生する回転トルクが有効に活用できる.これまで,回転電界によるイースト菌の二次元平面内での回転を実現した.今年度はこれを三次元的な回転が実現できるように,新たに姿勢制御デバイス(バイオアライナ)を設計し,試作し,実験により有効性を確認した. 回転電界により対象物に発生する回転トルクは理論的に電界強度の二乗に比例する.実際にクロレラを対象として二次元平面内での回転電界を与え,対象物の回転速度を計測し,これを確認した.また,三次元的な姿勢を制御するために電極構造を三次元に拡張した.観察面に垂直な面に関して回転電界を与えると,縦方向に対象物が回転することを確認した.また,接触型と組み合わせるために,上部電極中央にスリット状の切込みを加えて,ガラス製ピペットを挿入した状態で回転電界による姿勢制御を試みた.これは,ガラスピペットの誘電率の影響を受け,電界が局所的に乱れることにより,安定した姿勢制御が困難であった.そこで,操作性を改善するために非接触型による姿勢制御と接触型による解剖操作は同時に行わず,作業分担をすることが現実的には望ましいことを明らかにした.また,操作環境での液体の蒸発に伴う流動現象を抑えるために,バイオアライナ内部に流体を溜めておくスペースを設けることで操作環境を安定化できることを示した.以上により,接触型の利点と非接触型の利点を融合した新しいバイオマイクロマニピュレーションシステムを構築できた.
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