重水素吸蔵パラジウム板電極を陰極として3Torrの重水素ガス中でグロー放電を1時間継続し、その間ヘリウム3比例計数管による過剰中性子およびNaIシンチレーションカウンターによるガンマ線を計測した。バックグランドの計測数を越える中性子は検出されなかった。さらに放電試行後にパラジウム電極に対するオートラジオグラフィーおよび2次イオン質量分析(SIMS)による試料表面の元素分析を行っている。グロー放電中に、希にγ線スペクトルで60keV、70keV、110keV、180keV付近にバックグランドと異なるピークを認めた。これらのエネルギーに関連する核反応が起きていることを示唆するものと解釈できる。SIMSでは混入不純物とは考えられない量の鉄(^<56>Fe)とクロム(^<52>Cr)を検出している。パラジウム板を5枚重ねた試料の場合には、放電後に上部のパラジウム板試料の吸蔵率が大きく低下する傾向がある。また、ガンマ線が殆ど検出されないパラジウム試料では吸蔵率の低下は0.01〜0.05であり、吸蔵率のみならず、試行前後の吸蔵率の変化が大きい試料でガンマ線放出が起こりやすいことが分かった。 次に、パラジウム板の片面に酸化マンガン(MnOx)薄膜を修飾し、軽水素吸蔵後に真空中でこれに電流を3時間流し、その間、四重型質量分析計による質量分析、半導体型計測器による荷電粒子計測および試料の温度計測を継続し、放電試行後に、パラジウム試料に対するオートラジオグラフィーおよびSIMSによる試料表面の元素分析を行っている。真空法では、いずれの試行においても荷電粒子は観られず、希に試料温度の異常上昇を観測している。多くの試行で質量数4の分子の放出を観ており、この分子は重水素分子(D_2)、HT、、ヘリウム(^4He)のいずれかであると判断される。オートラジオグラフィーにおいてフィルムを感光させる放射線はベータ線もしくはX線であることが明らかとなった。SIMSでは質量数リチウム(^7Li)、ナトリウム(^<23>N)、カリウム(^<39>K)に対応する元素が多量に生成されていることが確認された。
|