近年、電磁力による物体の支持に関する研究が活発化している。ベアリングレスモータはモータが発生する電磁力を利用して回転する主軸を支持しようとする物である。そこで、真空、低温、高温などの雰囲気、危険な流体、長寿命と信頼性が要求される応用などへの適用が期待されている。すなわち、半導体製造装置に用いられるガス移送ポンプ、真空雰囲気を形成するターボ分子ポンプ、また、信頼性が要求される原子炉の冷却水ポンプ、液化天然ガス移送ポンプなどである。 すでに、誘導機形ベアリングレスモータにおいて定格負荷付近で安定に磁気力により支持可能であることを明らかにしている。しかし、過負荷時には磁気力による支持が不安定になりタッチダウンする恐れがあった。 本研究では、磁気力支持が不安定になる原因が過負荷時の特に過渡状態で発生することに着目した。そこで、加速試験を行い、固定子内のサーチコイルにより検出される磁束信号と制御系でフィードフォワード的に発生する磁束信号を比較した。この結果、2つの信号に位相差が過渡状態で発生することを明らかにした。 この問題を解決するため、ギャップ磁束に注目したベアリングレスモータのすべり周波数形ベクトル制御を新たに提案した。さらに、試作システムを製作して加速試験を行い、二次鎖交磁束一定ベクトル制御時と比較し有効性を明らかにした。すなわち、ギャップ磁束一定ベクトル制御を行うことで、トルク電流を2倍とした過負荷状況下でも安定に浮上回転できることを実験的に確認した。また、巻数比"a"を用いたベクトル制御を構成し、巻数比を変えて実験を行うことで半径方向力の非干渉化において最適と思われる巻数比を求める一手法を提案し、巻数比"a"の値を求めた。その結果、a=1.04の時に、定常状態において半径方向力の非干渉化ができることを実験的に明らかとした。 しかし、a=1.0でないのはなぜか、また、温度の上昇とともに過負荷時の磁気力支持が不安定となる現象の対策をいかにすべきかは明らかになっておらず、今後の研究が必要である。
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