近年、ベアリングレスモータの開発が世界各地で行われている。ベアリングレスモータは磁気力により主軸を支持するとともにトルクを発生して回転する電動機である。そこで、真空、低温、高温などの雰囲気、危険な流体、長寿命と信頼性が要求される応用などへの適用が期待されている。すなわち、埋込型心臓補助ポンプ、石油プラントに用いられるキャンドポンプ、半導体製造装置、微生物を培養するバイオリアクター、人工衛星搭載用望遠鏡駆動機などに開発が進んでいる。 特に、最も産業応用が盛んな誘導電動機では、キャンドポンプへの応用が国内、スイスの企業-大学連合により進んでいる。既に、報告者らは透導機形ベアリングレスモータにおいて先駆的な研究を行ってきており、定格トルク負荷付近で安定に磁気力により支持可能であることを明らかにしている。しかし、トルク負荷急変時、急加減速時には磁気力による支持が不安定になりタッチダウンする恐れがあった。 本研究では、磁気力支持が不安定になる原因が過負荷時の特に過渡状態で発生することに着目した。そこで、加速試験を行い、固定子内のサーチコイルにより検出される磁束信号と制御系でフィードフォワード的に発生する磁束信号を比較した。この結果、2つの信号に位相差が過渡状態で発生することを発見した。さらに、磁束指令値と回転磁界に位相差が生じると半径方向の位置制御ループの位相余有が減少する問題があることを明らかにした。 この問題を解決するため、ギャップ磁束に注目したベアリングレスモータのすべり周波数形ベクトル制御を新たに提案した。すなわち、ギャップ磁束一定ベクトル制御を行うことで、トルク電流を2倍とした過負荷状況下でも安定に浮上回転できることを実験的に確認した。また、ギャップ磁束と2次鎖交磁束の中間的な磁束を連読的に設定するベクトル制御を構成し、半径方向力の非干渉化において最適と思われる手法を提案し、巻数比"a"の値を求めた。この際、温度上昇により2次抵抗値が増加するとa=1であるギャップ磁束ではなくaが1より増加することを明らかにした。 なお、今後の課題として、温度上昇と安定性に関する研究が必要である。
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