ハーフメタリックな性質を持つ遷移金属酸化物を用いた室温で巨大な磁気抵抗を示すトンネルデバイスの実現には、電子トンネルの起こる強磁性酸化物表面の磁気的状態の制御が不可欠である。本研究では、強磁性酸化物表面の磁気的状態を制御するため、極めて薄い非磁性-磁性二重障壁層を導入しその有効性を明らかにすることを最終目的として、本年度はその基礎となる1.高品質なFe_3O_4およびSr(FeMo)O_3薄膜の成長条件と表面状態の評価、2.nm厚障壁層の成長条件探査および結晶性・モフォロジィーの評価および3.非磁性単一障壁層を持つスピントンネル接合の作製と特性評価を行った。1.では、パルスレーザー堆積(PLD)を用いて高品質なFe_3O_4薄膜が基板温度100℃以上、酸素圧1x10^<-5>Torrで成長すること、その表面は酸化され易く、接合における絶縁障壁層の成長は酸素圧1x10^<-5>Torr以上では約200℃以下で行う必要があることを明らかにした。またSr(FeMo)O_3薄膜の成長では、薄膜の飽和磁化は成長温度とともに減少するものの、薄膜は従来の報告より300℃低い500℃でも成長することを初めて見い出した。2.では、PLDを用いてMgO絶縁障壁層の成長条件を決定し、上記のFe_3O_4薄膜表面酸化から制限された成長条件においても良好な障壁層が形成可能であることを明らかにした。この結果をもとに、Au/MgO/Fe_3O_4トンネル構造を作製、接合電流-電圧特性の評価・解析を行い、1nm厚のMgO層でも良好なトンネル特性を示すことを明らかにした。3.では、Fe_3O_4/MgO/Fe_3O_4スピントンネル構造を作製し、その電流-電圧特性より、金属マスクを用いて作製した場合高真空下でのPLDではステップカバレッジが悪いため絶縁層のマイクロショートを起こしやすい問題点を指摘した。
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