本年度は、前年度の研究成果を受けて、半金属強磁性酸化物をFe_3O_4に絞り、これを電極層として用いたスピントンネル接合構造に関して、1.非磁性単一障壁層を持つ接合の作製と特性評価、2.非磁性一磁性二重障壁層を持つ接合の作製と特性評価を行った。1.では、前年度の結果を受けて薄い障壁層の低ステップカバレッジによるマイクロショートを改善するため接合構造を変更してCo_<0.4>Fe_<2.6>O_4/Fe_3O_4/MgO/Fe_3O_4構造を作製し、接合におけるFe_3O_4電極間の反平行磁化状態に対応する磁気抵抗効果を確認した。その磁気抵抗変化は、-0.5%と極めて小さかったが、その磁場依存性から、その値は本研究の動機の一つである界面付近の磁化の超常磁性的な振る舞いと関連する可能性があることを初めて明らかにした。また、MgO基板を使用しているため、反位相境界の存在の低磁気抵抗効果への影響も示唆された。2.では、MgO(非磁性)-NiO(反強磁性)二重障壁層を持つFe_3O_4/NiO/MgO/NiO/Fe_3O_4接合構造を作製したが、金属マスクを用いているため接合面積が大きいこと、およびNiO層が極めて薄い(1nm)ことのため未だ十分な接合特性が得られていない。この解決には、半導体微細加工技術による数μm^2の微少な面積の接合の形成が不可欠であり、現在取り組んでいる段階にある。これにより本研究の目的である十分な成果が得られるものと期待される。
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