アモルファスシリコンには、構成原子のネットワーク乱れを反映しバンド端近傍に浅い局在電子状態、いわゆるバンドテイルが存在する。バンドテイルによるキャリア捕獲および再放出は、この材料のキャリア輸送特性ならびにデバイス特性に多大な影響を与えている。本年度研究においては、バンドテイル状態とキャリア輸送特性を詳細に調べる手段として、これまで我々が用いてきた変調光電流法をさらに発展させた周波数分解タイムオブライト(TOF)法を開発し、これをアモルファスシリコンの電子輸送の評価に適用した。周波数分解TOFでは、逆バイアスp-i-n接合に高周波強度変調された短波長光を照射し、試料に流れる一次光電流の周波数応答を観測する。従来より広く用いられている時間分解TOFの場合、過渡電流波形に走行時間でのカットオフが生じる。時間ドメイン波形のフーリエ変換に相当する周波数分解TPFスペクトルには走行時間の逆数を周期としたビートが現れ、それを解析することでドリフト移動度をはじめたした諸物性の評価が可能となる。電子と正孔の輸送を独立に調べられることはもちろん、太陽電池構造においてそのまま適用できることもこの方法のメリットである。実験においては、5μm〜12μmのp-i-n接合試料を作製し、周波数10Hz〜50MHzにおいて変調光電流測定を行った。スペクトルのMHz域には、理論で予想された明瞭な振動がみられその出現周波数よりドリフト移動度の周波数依存性が得られた。室温における測定結果からは、電子ドリフト移動度が周波数によらず約1cm^2/Vsであることが示され、これまでの我々のコプラナ試料での研究結果と整合を確認した。今後は、温度依存性および正孔輸送特性の調査を行うとともに、他の関連測定も導入し多角的な研究を推進していく予定である。
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