本研究は、安価な高品質半導体薄膜の形成法の確立を最終目標として、化合物半導体ナノパーティクルの合成と薄膜形成に関する基礎的知見を得ることを目的とした。具体的には、高効率太陽電池用材料であるセレン化銅インジウム・ガリウム(CIGS)を対象とし、そのナノパーティクル合成と非真空プロセスによるCIGS薄膜形成法の確立を目標とした。CIGSナノパーティクルの合成はヨウ化物反応に基づき以下の手順で行った。最初に、1気圧のアルゴンガス雰囲気中でヨウ化銅、ヨウ化インジウム、ヨウ化ガリウムにピリジンを加え、室温で1時間攪拌した。これにセレン化ナトリウム-メタノール溶液を混合すると、CIGSとヨウ化ナトリウムが生成する。この溶液をドライアイスで冷却し、さらに十分攪拌した後、遠心分離機にかけ、生成したCIGSとヨウ化ナトリウムを分離した。最後にドライメタノールを加え、ピリジンを除去し、生成CIGSナノパーティクルをメタノール中に保存した。このようにして得られたCIGSナノパーティクルは透過電子顕微鏡観察から粒径数十nmの微結晶からなること、また、電子回折像から非晶質または微結晶であることが分かった。次に、このCIGSナノパーティクルにプロピレングリコールなどの増粘剤を添加し、インク状としたものをモリブデン薄膜/ガラス基板上に塗布し、500〜600℃で30分間アルゴンガス中で加熱し、焼成を行った。得られた薄膜をX線回折で調べた結果、カルコパイライト型CIGSであることを確認した。今回、初期実験ではあるが、CIGSナノパーティクルの合成と塗布焼成法によるCIGS薄膜の形成が可能であることを実証できた。今後の課題は、基板との密着性強化、膜の緻密化、大粒径化である。
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