磁性人工格子に見出された巨大磁気抵抗効果(GMR)は界面構造に敏感で、その積層方向に電流を加えた(Current Perpendicular to the Plane : CPP)際、最大となる。ナノスケール界面構造のGMR特性・作成条件との対応、CPP-GMRを実現する基板あるいは人工格子薄膜の微細加工法を明確にすることが求められている。本研究では、1)分子動力学法による薄膜形成過程シミュレーション、2)収束イオンビーム(FIB)による基板・人工格子の微細加工、により人工格子の界面構造と作成条件との対応を明確にし、高性能GMR素子の実現を図る。平成12年度の成果は以下の通りである。 1)分子動力学法による薄膜形成過程シミュレーション 1-1 種々の製膜条件における具体的なナノスケール界面モデルを求め、核磁気(NMR)スペクトルの報告例との対応関係についても検討した。製膜条件、積層順序の違いにより上下の界面において異なる構造が見られ、NMRスペクトルと傾向の一致が見られた。本研究の結果はNMRスペクトルから多層膜の構造解析を行う際に用いる多層膜界面のモデルの1つとして、例えば上下の界面の違いをフィッティングするためのモデルとしても利用可能性がある。 1-2 初期成長過程の膜構造観察より、積層に伴い表面及び表面より数ML内部の層において構造の変化が見られた。また、積層欠陥上に周囲に転移を伴う粒状の構造が形成され単結晶基板上にも結晶粒を生じ得ることを見いだした。 2)FIBによる基板・人工格子の微細加工 人工格子膜に対し、CPP-GMR成分増加によるMR比増大を目的としてFIBにより微細加工を施した。設計モデルに近い形状に微細加工を行うことができた。また、FIB加工をした際の試料のGa汚染は表面より3nm以内であり、今回の加工寸法では、汚染は非常に小さいと考えられる。MR比測定の結果、微細加工前の試料でMR比4.55%に対し、本試料では8.90%に増大し、資料表面に溝を形成するという比較的簡単な手法でMR比が増大することを確認した。また、本手法は従来のGMR素子における感度ばらつきの調整等にも応用が可能ではないかと考える。
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