固体絶縁物表面のトラッキング現象は、沿面放電の進展によって生じ得る。種々の高分子絶縁材料を試料として、標準雷インパルス高電圧印加時の油中沿面放電を調べた。その結果、エポキシマット積層板(EGML)の沿面放電に、他の試料では見られない特異現象のあることが分かった。すなわち、放電の進展と共に、ストリーマ上に輝点を持つ放電スポットが多数発生する。この現象は、EGMLの複合成分である誘電率の大きなガラス繊維によって、その近傍の電界が強化され、油中の電離現象が促進されたためである。このような沿面放電が生じた場合の放電電流パルスは、高密度ポリエチレンやエポキシ樹脂など、他のどの試料よりも大きく、かつパルス数も非常に多い。それ故、同じ電圧を印加した場合の放電電荷量は大きくなる。これに伴って放電エネルギーも増加し、絶縁物表面のトラッキング現象が起こりやすく、絶縁劣化の原因となり得ることが明らかにされた。 一方、針-平板電極系を用いて固体内部のインパルス放電トリーイングが研究された。最初、汎用的な絶縁材料であるPMMAについて、インパルス電圧を連続的に印加した場合のトリーイングを調べた。その結果、(1)トリーの進展長と進展様相には、印加電圧の極性効果が存在することが分かった。すなわち、負極性トリーは、針電極先端から数本のトリーが進展するのみである。これに対して、正極性トリーは、針電極先端から幾本もの直線状トリーが広がりを持って進展し、進展長は負極性トリーよりも長い。(2)負極性トリーは、電圧の印加回数と共にその先端を僅かに助長するが、正極性トリーは、4回以上の電圧印加に対してその進展を殆ど停止する。本研究では、上記の成果を基に、より高い絶縁性能を持つ材料の開発として、配向性ポリエチレンが新規に創製されそのトリーイングが研究された。トリーの進展は、配向方向に強く依存すること、及び、絶縁強度は無配向ポリエチレンよりも高いことが判明した。
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