研究概要 |
磁性体の中でも高周波導波路媒質として用いられるフェライトであるイットリウム・鉄・ガーネット(YIG)におけるマイクロ波の伝搬について,特に非線形特性解析と時間領域解析という点に重点を置いて特性を明らかにした.解析手法としては,磁気モーメントの運動方程式を空間・時間領域において差分化して有限差分時間領域法と組み合わせた解法を用いている.その成果は以下の点にまとめられる.(1)一次元フェライト導波路に対して時間領域解析を行い,電磁波モードについて包絡線ソリトンが形成できることを見いだした.また,包絡線のみに着目したシュレディンガー方程式を数値的に解いた結果と比較している.(2)解析を2次元のスラブ導波路に拡張し,静磁後退体積波(MSBVW)モードの解析を行っている.まず伝送量の周波数特性を示し,実際にYIGを使ったMSBVWの伝搬特性実験結果と比較・検討している.次に時間領域におけるパルス変形を調べ,パルス幅が圧縮される非線形応答を見い出したほか,空間的界分布にも非線形特性が見られることを明らかにした.(3)導波路中の静磁波-電磁波変換部付近の領域とそれらの間の伝搬領域とで印加する直流磁界の強さを変化させた場合,すなわち不均一磁界を印加した場合についてパルス変形の違いを考察した.(4)静磁波を使ったパラメトリック増幅の解析を行った.励振および受信アンテナの位置によって利得特性を改善できることを明らかにし,さらに磁気損失による信号の減衰に対し,パラメトリック増幅により補償できることを示した.(5)新しい動作原理に基づく静磁波ミキサを提案し,その動作特性を明らかにした.静磁波を用いた信号のミキシングは線形動作を前提とする従来の手法では解析困難であった.本研究では数値解析を行うとともに,実際にデバイスを試作し,それらの結果を比較している.
|