コバルト含有スピネル型ガンマ・ヘマタイト酸化鉄薄膜を用いた磁気記録メディアを製造するには、従来法ではまずマグネタイト酸化鉄薄膜を一般的な反応性スパッタ成膜法によって200℃以上の基板温度で作成し、その後、大気中で250℃以上に2〜3時間程度保持(大気中アニール)による酸化処理を行い、高抗磁力を示すガンマヘマタイトに変態させるという、2段階かつ高温の製造プロセスが不可欠であった。本研究では、新しい製造方法として高活性・高密度なプラズマを活用できる電子サイクロトロン共鳴マイクロ波プラズマ成法を利用した反応性スパッタ成膜法(反応性ECRスパッタ法)を本材料製造に初めて導入し、本法が製造プロセスの簡素化と低温化に極めて有効であることを実証した。Co-Fe合金ターゲットを使用し、アルゴンと酸素による混合ガスを用いてスピネル型コバルト含有酸化鉄薄膜を作成し、室温(基板をまったく加熱しない状態)〜150℃という低い基板温度で、しかも大気中アニールを行わない成膜だけの1工程で所望の酸化鉄薄膜を作成できることを見出した。この酸化鉄薄膜は、抗磁力が3000Oeと高く、基板界面から配向が良好な結晶が成長していること、低温で作成できるので、薄膜の表面粗さが極めて良好(平均表面粗さは0.2〜0.4nm)なことなどが判明した。本酸化鉄薄膜を用いたハードディスクメディアを試作し、インダクティブ/MR複合ヘッドと組み合わせて記録再生実験を行った結果、本メディアは保護層を設けなくても、また表面仕上げを行わなくても、浮上型磁気ヘッドを使用できることを確認した。本材料を有機フィルム基板上に堆積させ、磁気テープへの応用の可能性についても検討し、PETあるいはポリイミド可塑基板の上に保磁力が2000Oe程度と高い酸化鉄薄膜を製造できることを見出した。さらには、ECRスパッタ法において薄膜製造を高速化するための装置の改良についての知見も得た。 以上のように、高耐久性・低コスト性に優れた酸化鉄薄膜メディアを低温で高速に製造できる実用的な新製造法を開発し、本研究において当初掲げた研究目的は十分に達成された。
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