研究概要 |
電子のスピンを利用した新しいデバイス(スピントロニクスデバイス)を開発するために、スピン軌道相互作用が大きいと期待される狭ギャップ半導体InAs/AlGaSbヘテロ接合に着目し、Rashba効果による零磁場でのスピン分裂を磁気抵抗のビートパタ-ンから評価し、大きなスピン分裂を有することを観測した。 上記の結果に基づき、より大きなスピン分離を持つヘテロ構造を探索するため、InAs/AlSb, InAs/AlGaSb, InAs/GaSbの3種類の構造を作製し、ヘテロ界面の材料依存性を調べた。その内、InAs/GaSb構造では、同程度の2次元電子ガス濃度を持つInAs/AlGaSb構造で得られたスピン分離よりも大きな値が観測された。この結果はスピン分離の大きさをヘテロ接合の層構造により制御できることを実験的に検証したという点で意義が大きい。 この結果を踏まえ、スピン分離の大きなヘテロ構造を設計すべく、8バンドk・p摂動法により、Rashba効果によるスピン分離量を求める数値計算手法を開発した。 InAsチャネル層を低次元化するためのAFMによる陽極酸化加工プロセスを開発した。InAs表面反転層に微細構造を作製し、その電気伝導を評価した。低温での磁気抵抗を評価した結果A-B振動が観測され、移動度は低いもののサブミクロンの領域では電子の位相が保たれていることがわかった。 以上の成果は、InAs/(Al)GaSb系ヘテロ構造がスピントロニクスデバイス用材料として有望であることを示すとともに、材料系の設計手法の開発、低次元構造の加工法の開発とスピントロニクスデバイス開発の基礎技術を確立したということができる。
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