新規負性抵抗素子の負性抵抗の発現機構としてトンネル効果に基づいた2つのモデルが考えられる。1つが電極界面でのトンネリングに基づく界面トンネルモデルで、2つ目がバルク内部でのトンネリングに基づいた分極モデルである。いずれのモデルが適用できるのか検討した。 界面トンネルモデルによる負性抵抗特性は、電極から注入されたホール(電子)が電極表面上の絶縁層を電界によって変動する色素分子のHOMO(LUMO)準位へのトンネリングによって生じる。そこで、色素をドープした素子を模擬した素子ITO/絶縁層/有機層/Mg/Agを作製し、絶縁層と有機層の構成材料の種類、厚さを変え、ピーク電流の出現の仕方を調べた。絶縁層にはPPX(ポリパラキシリレン)あるいはPVK(ポリビニルカルバゾール)を、有機層にはTPD(トリフェニルジアミン誘導体)あるいはAlq_3(アルミーキノリノール錯体)を用いた。何れの組み合わせでも電流一電圧特性に負性抵抗を生じ、負性抵抗の発現に電極界面の絶縁層の寄与が示唆された。 分極モデルによれば、負性抵抗特性は分子間距離に依存することになる。そこで、分子間距離を変えるために色素の分散濃度依存性を調べた。色素分散濃度をマトリクスのPVKに対して0.1wt%から50wt%にまで変えても、電流ピークの出現電圧が変化しないことがわかった。また、色素分散層の厚みを可変しても電流ピークが出現する電界に変化はなかった。 以上の結果より界面トンネルモデルが負性抵抗の発現機構であることが示唆された。 次に、色素の分散制御法の確立を目指してPVKにドープしたAlq_3の分散状態並びにPS(ポリスチレン)中のTPDの分散状態を電子分光型電子顕微鏡で観察した。その結果、色素分子を構成する元素の分布から色素の分散状態を観察・制御できる見通しが立った。また、通電中のジユール熱や太陽光に含まれるUV光によってフェルミ準位や価電子帯の状態密度さらに、固体構造が影響されることが分かった。
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