本年度は色素のドーピング制御法を確立するための電子分光型電子顕微鏡用試料の作製法、負性抵抗素子の動作機構などについて検討した。 (1)ガラス基板上にスピンコーティングした薄膜を網目状に切断し、純水の中で基板から剥離し、浮いた膜をグリッドで掬うというやり方で電子分光型電子顕微鏡用試料が自在にできるようになり、ポリマー中での有機色素のドーピング状態を制御できる見通しが立った。 (2)負性抵抗素子を構成する各種ポリマーと有機色素の仕事関数、HOMO準位、LUMO準位、エネルギーギャップをケルビン法、大気中UPS、UV可視吸収スペクトル測定などによって評価し、各材料のエネルギー帯構造を明らかにした。 (3)負性抵抗の発現と電極界面の絶縁層との関連について明らかにするため、陽極であるITO電極面上に絶縁性高分子のPVK(ポリビニルカルバゾール)あるいはPPX(ポリパラキシリレン)の薄膜をそれぞれ真空蒸着法と熱CVD法で形成し、さらにホール輸送材料のTPD、陰極を積層した素子を作製して検討した結果、陽極界面の絶縁層が薄い場合には電導がバルクに律速され、TPD分子間のホールのトンネリングによる負性抵抗を生じ、絶縁層が厚くなると電導が界面に律速され、負性抵抗をほとんど生じなくなる可能性が示唆された。このように負性抵抗の発現にバルク中のホール伝導の影響が大きいこと、また陽極界面の絶縁層は負性抵抗の発現に寄与していない可能性の高いことを明らかにした。 (5)UV光の照射によって素子を構成するポリマーマトリクスの光電子収率特性の傾きが変化し、表面酸化劣化層の生成が示唆された。大気中UPSは負性抵抗素子のUV劣化に伴う電子状態の変化を評価するのに有効であることが分った。 (6)次年度使用する界面あるいはバルクにおける空間電荷の蓄積が負性抵抗に及ぼす影響について検討するためのパルス静電応力法による空間電荷測定システムを完成させた。
|