分子分散型高分子負性抵抗素子の負性抵抗の発現機構として、トンネル効果に基づいた2つのモデルを考えてきた。1つは負性抵抗特性が、バルク内部でのトンネルホッピングに律速されるとするモデルで、2つ目が電極界面でのトンネリングに律速されるとする界面トンネルモデルである。バルク律速モデルでは、負性抵抗の出現が分散された色素の分子間距離に依存し、界面トンネルモデルでは、負性抵抗の発現が電極界面の絶縁層並びにそれに隣接する色素分子や絶縁層を構成する材料のHOMOないしLUMOレベルなどに依存すると考えられる。 本年度は、界面トンネルモデルの可能性について検討するために、電極界面に絶縁層を設けたモデル素子(陽極/絶縁層/色素分子層/陰極)を作製し、界面絶縁層の厚さや電極の仕事関数と界面絶縁層のHOMOレベルとの差が負性抵抗特性に及ぼす効果について検討した。また、バルク律速モデルの可能性について検討するために、エネルギー・フィルタ電子顕微鏡(EFTEM)を用いて電極界面に垂直な方向から色素分子の分散状態を調べて分子間距離を評価し、バルク内部でのトンネルホッピングの可能性について考察した。 得られた結果は次のように要約される。(1)ホールに対するトンネル障壁幅を広くすると、ピーク電流は低下し、ピーク電圧は高くなる。一方、トンネル障壁を低くするとPV比が低下する。また、ピーク電流は井戸幅の増大につれて低下することが分かった。これらの結果は、界面絶縁層が負性抵抗特性を律速している可能性を示唆している。(2)有機色素のトリフェニルジアミン誘導体(TPD)と8-キノリノール金属錯体(Alq_3)はともに高分子マトリクスであるポリスチレン(PS)ポリビニルカルバゾール(PVK)子中でクラスタを形成している。(3)クラスタは互いに2〜25nm離れて存在している、これはクラスタ間に伝導パスができていないこと、またトンネル可能な距離であることを示唆している。(4)EFTEMは低分子の分散状態を評価する有効な手段である。
|