絶縁性高分子に有機色素をドープした多重障壁型高分子負性抵抗素子の負性抵抗発現機構として、負性抵抗特性が、電極界面の絶縁層に律速されるとする界面トンネルモデル、ドープされた色素分子間のトンネリングに律速されるバルク律速モデルのいずれが適用可能か検討した。さらに、高分子マトリクスの安定性をUV光の照射により調べた。 電極界面に絶縁層を設けたモデル素子(陽極/絶縁層/色素分子層/陰極)を作製して界面トンネルモデルの可能性について検討した。その結果、ホールに対するトンネル障壁幅を広くすると、ピーク電流は低下し、ピーク電圧は高くなる。一方、トンネル障壁を低くするとPV比が低下する。また、ピーク電流は井戸幅の増大につれて低下する。 一方、バルク律速モデルの可能性について検討するために、エネルギー・フィルタ電子顕微鏡を用いて電極界面に垂直な方向から色素分子の分散状態を調べて分子間距離を評価し、バルク内部でのトンネルホッピングの可能性について調べた。電子輸送性色素、ホール輸送性色素ともにポリマー中でクラスタを形成し、それらが互いに2〜25nm離れで存在していることが明らかとなった。これらはトンネル可能な距離であり、クラスタ間に伝導パスが生じていないことを示している。 UV光の照射によってポリマーマトリクスの一つであるPVKのフェルミレベルは高くなる。これは酸化によるトラップレベルの形成が原因であることが示唆された。また、UV光照射により価電子帯の状態密度が増大した。一方、熱処理によりフェルミレベルが低下した。 以上、バルク中でも電子あるいはホールはトンネリングするが、負性抵抗特性を律速しているのは界面絶縁層であることが示唆された。また、負性抵抗素子の安定性を損なう要因の一つである外界から照射されるUV光や熱により高分子の電子状態は変化する。
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