インターネットに代表されるベストエフォート型ネットワーク上で複数のストリームから構成されるアプリケーションを利用する場合、その品質に対するネットワーク遅延の影響を最小限に抑えるためのメディア同期を導入することが肝要である。本研究では、遅延の短時間推移と予測に基づいたメディア同期手法を構築することをその目的としている。 本年度は、インターネット上の構造的な遅延を同定するためにphase plot法を用いたアルゴリズムを導入した。この手法自体は精度の高いものであるが、遅延に対して端末間でのクロックのずれと修正をオフラインでしか行えないためリアルタイム性のあるメディア同期への適用が困難であることが難点であった。そこで、これらの調整をリアルタイムで行える新しい手法を提案すると共に、遅延測定の精度自体にも改良を加えた新たな遅延測定アルゴリズムを提案すると共に、このアルゴリズムの遅延予測とメディア同期への適用を行った。一方、アプリケーションとしては、新たに、触覚メディアを用いたコラボレーションシステムへのメディア同期の導入を図った。このためにまず遅延と同期ずれに対する主観評価実験を行った。その結果、従来型のストリームメディア(音声・画像)の場合には、遅延時間を犠牲にしても同期を積極的に行うことが品質向上のために重要であったが、触覚コラボレーションの場合には、むしろ同期を積極的には行わず、時刻にずれがあってもこれをそのまま提示した方が主観評価向上につながるという、従来の常識と直感に反した場合があるという重要な結果を見出すことに成功した。 また、この知見を積極的に利用した新たな遅延補償とメディア同期の枠組みを提案しこれをプロトタイプシステム上で実現した。
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