研究概要 |
本年度は,非線形力学系に存在する対称性を鑑みて,発生する可能性のあるすべての周期解とその分岐を定性的に分類することを考え,対応する群の表現を整理し,幾つかの数学的な解析結果を得た.資料を整理した上で研究結果を発表する予定である. 理論解析結果を神経回路網および電気回路の解析に応用し,以下の数値解析,回路実験を行った. まず,非常に基本的な振動子であるBVP発振器について,結合系における対称性を調べ直した.故意に発振リズムの異なる振動子を設定し,それらを互いに弱く結合させるだけで,これまでにないタイプのカオスを発生させることができた。パラメータ平面の大域に渡って,周期解の分岐構造を調べ,分岐図で特定されたパラメータ値における数値シミュレーションは,対応する実電気回路においても完全に再現された.今後,他の結合方式についても調べる一方,定性的な分岐発生のメカニズムの説明を試みる. 次に,BVP発振器をα関数を用いてシナプス結合させた系について検討した.発生する周期解については,ポアンカレ写像が可微分なまま構成できるため,周期解の分岐とカオスについては全て数値的に調べることができる.BVP方程式は,神経振動子の発火を精密に再現できるHodgkin-Huxley(H-H)方程式の簡略モデルとして知られているが,シナプス結合系についての現象の類似性については従来までに検討されたことはなかった.そこで,BVP振動子の結合系とH-H振動子の結合系が分岐構造まで定性的に一致するようなパラメータ集合を見い出し,多数個結合系の解析を開始できる基盤を整備した.結合系でみられる周期解,非周期解の対称性を有限群の表現を用いて分類し,神経振動子間で種々の同期形態や対称性を持つ発火応答が系のパラメータ変化により状態遷移するメカニズムが解明された. さらに,スイッチなどの不連続要素を含む力学系の解析と回路実験も進んでいる.本年度は非常に簡単な一次元リターンマップにしたがうスイッチの入った電気回路を解析した.ポアンカレ写像がスイッチの切り替え点でうまく定義できるため,解の振る舞いを数値的に完全に把握することができた.
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