研究概要 |
移動体通信などの無線通信においては,通信路で発生する雑音やフェーディングの影響により,シンボル間干渉やユーザ間干渉などの,各種干渉が発生し伝送誤りを生じる.干渉除去器を用いた伝送誤りの削減は,高品位な通信を実現するための重要な技術である.さらに,移動体通信において伝送される情報が,従来の音声中心からデータ通信へと移行が進むにつれ,その重要度は増加すると考えられる.データ通信では,従来の静止画や文字情報に加え動画像などの伝送も可能とするため,伝送レートの高速化への要求も高まりつつある. 高品位かつ高速な移動体通信を実現するためには,干渉除去器の高性能化が要求される.本研究では,干渉除去器の重要な構成要素である,適応フィルタのパイプライン実現による高速動作に関する検討を行った.パイプライン実現は,処理の実行単位を細分化することで,より高速に動作可能とするための技術である. 干渉除去器に使用される適応フィルタは,主にLMSフィルタとRLSフィルタの2種類である.これら2種類のフィルタは,応用において許容される演算量および学習特性に応じ選択される.LMSフィルタは,必要となる演算量が少ない反面,学習に要する時間が長いという特徴をもち,RLSフィルタは高速な学習をより多くの演算を行うことで実現するという特徴をもつ.干渉器のパイプライン実現の際には.これらの特長に応じて検討を行う必要がある. 本研究では,パイプライン実現の手法として,2つの手法を用いた.一つ目の手法はハードウェアのパイプライン化であり,他方はソフトウェアのパイプライン化である.前者はASICなどの専用回路を設計する際に有効な手段であり,後者はDSPなどでの実装の際に有効な手段である.本研究では,使用する適応フィルタの性質に応じて適用するパイプライン実現手法の選択を行った.すなわち,LMSフィルタではハードウェアでのパイプライン実現による高速化を,一方RLSフィルタにはソフトウェアパイプライン実現による高速化を行う手法を提案し,その有効性を示した.
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