研究概要 |
本研究は,発話に関与する調音器官の運動特性を明らかにし,これに基づいた音声合成実験を行うことを目的とするものである。これまでの研究で,GUI(Graphical User Interface)ベースの音声合成・分析システムの開発を行い,MRIデータから抽出される単母音発話時の声道形状を声道シミュレータ部に与えることで,単母音の合成を行ってきた。本年度は,調音データの分析結果を踏まえて,連続音声の合成を試みた。調音データの分析では,縦続1次系の関数が調音運動を良好に表現できるので,これに基づいた運動解析を進めてきた。連続音声の合成のためには,調音運動により時々刻々と変化する声道形状を表現し,これを声道シミュレータ部に入力する必要がある。そこで,MRIデータから得られるスタティックな形状を基に,縦続1次系関数を用いてダイナミックな形状変化を表現することで,連続母音の合成を行った。実験の結果,滑らかな調音運動が比較的少ないパラメータで表現可能となり,自然性の高い合成音声を得ることができた。また,声道シミュレータ部では,声道形状を20個の音響管の縦続接続で近似表現するが,声道形状の分割数,すなわち音響管の個数と声道の音響特性の関係についても検討を行った。分析には有限要素法を用い,分割数とホルマント周波数変動の関係を調べた。分析の結果,40個の音響管では,その変動は十分に小さく,20個の音響管でも概ね良好な特性を示した。しかし,20個の場合は,母音により影響が異なり,中には特定のホルマントに大きな変動を与える例が認められ,その取り扱いには注意が必要であることがわかった。
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