雨、雲、霧等を含むランダム粒子による電磁波の散乱問題は、マイクロ波レーダをはじめとする各種リモートセンシング等の実際的な問題に密接に関連している。本研究では、ランダム粒子による電磁波の散乱問題の中で、主として地球規模の気候変動に大きく影響を与える降雨と電磁波との相互作用を理論・実験の両面から検討し、理論的に予想される多重散乱効果によって生ずる後方錯乱エンハンスメントが及ぼすミリ波帯レーダ受信強度への影響について明らかにする。多重散乱問題を取り扱うのには、電波の偏波状態を完全に記述できるストークスベクトルを採用し、このストークスベクトルに対する時間項を含む放射伝達方程式を基本式とする方法が一般的であるが、通常用いられるこの方程式では、後方散乱のエンハンスメントが組み込まれてこない。そこで、散乱プロセスを取り入れて、放射伝達方程式を修正する形で後方散乱強度が導けるかどうか検討を行った。その結果、受信位置が完全に後方(散乱角が180度)の場合には、このような取り扱いも可能である事が分かった。しかしながら、完全に後方ではないバイスタチックのような位置に対して、放射伝達方程式に基づく方法では、送受信間の非対称な位置関係により非常に困難である。更に重要なことは、エンハンスメントに寄与する往復路の相互作用を考慮した散乱プロセスを導入しないと、電磁波の相反性が成り立たない事がわかった。このことを確かめる為に、擬似的に降雨モデルを作成し、ミリ波電波での散乱実験での検討を一部行う予定である。
|