電磁波のリモートセンシング問題において、降雨粒子による電磁波の散乱現象のより詳細な解明は、地球規模の気候変動に大きな影響を与える降雨分布を正確に把握する上で必要である。昨年度からの50GHz帯ミリ波レーダによる散乱実験では、装置の校正と性能評価を継続し、複数散乱体からの多重散乱の測定が出来るかどうかに重点をおいた。その結果、単一散乱体からのクリーピング波などの測定は、分解能の関係で困難であるが、異なる散乱体間の多重散乱は可能であることが示された。今回の実験では、上空からの降雨分布を調べる際に海面からの反射エコーが混在し、その海面と降雨との相互作用の影響を検討するため、表面として、海面の波などを想定した粗さのある表面を模擬的に作り、その表面近くに置かれた円柱散乱体からの散乱パルス波形を測定して粗さによる影響を調べた。測定の結果、平坦な表面とは異なるパルス波形、特に表面と散乱体とを経由する2回散乱において、位相の変化が原因と思われるパルス応答波形の変化が得られた。更に、窓関数の選び方を含む信号処理の方法等により、微小信号の検出、分離に対する方法の検討も必要であると思われる。 本研究の主目的である降雨によるエンハンスメントによる影響は、光の後方散乱の場合とは異なり、受信する視野角が広くなっており、後方の非常に狭い角度内でおこる現象の観測は、極めて困難であることが分かった。従って、室内の実験条件の制約等から、エンハンスメントが測定できる角度は極めて小さく、角度の分解能をあげる必要があるため、伝搬距離を増やす等、更なる工夫が必要であると考える。
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