ウェーブパケット変換のような多重解像度解析を確率過程に適用するための基礎理論の確立と応用についての研究をおこなった。 (1)基礎理論として、確率微分方程式で表現される確率過程に対応するマルチスケールシステム表現を線形システムに対して明らかにした。これを用いて推定問題における計算量の減少を可能にした。 (2)時間差をおいて取得した2枚の画像について各部の移動ベクトルを図示したのがオプティカルフローである。このフローの推定に多重解像度解析を適用した。画像を示すデータがfBm過程で近似できる場合にその過程のパラメータを推定し、マルチスケールシステムの推定理論を適用して計算量を低減した。 (3)時間の推移に対して不変であるウェーブレット変換を用いて信号圧縮をおこなう手法を明らかにした。また、オーディオ信号に対して人間の聴覚モデルと同じ周波数解像度をもつウェーブレットパケット分解にもとづいた信号圧縮をおこない、良好な結果を得た。 (4)確率過程の多重木構造表現をセンサフュージョンの1つのモデルとしてあらたに提案した。これについて予め指定された共分散関数をもつ多重木構造確率モデルの実現問題を考えた。適当な内部行列を選ぶことによって、それぞれの木のパラメータがマルコフ性を保存することを利用して正確なシステム実現ができることを示した。また、各ツリーにおける推定結果を統合し、観測データに欠落がある場合や、各ツリー上の信号が部分的に存在する場合の推定手法を明らかにした。
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