研究概要 |
制御系の解析および設計においては,無限次元空間において問題記述が行われることがしばしばある.制御系そのものが無限次元系である場合には,そのことは当然ではあるが,制御系がたとえ有限次元であっても,無限次元空間での計算が必要となることがある.計算機上で計算を実行する段階では,無限の自由度を保つことはできないので,何らかの方法で有限次元空間での計算方法を採用することになる.有限次元での近似が大きな支障を生じる場合があるので,有限次元空間での実効的な計算方法を提示することは工学上重要な問題である.本研究では,むだ時間系のハンケル特異値計算法,無限次元線形計画法を用いた多目的制御の最適化計算に対して,本来無限次元空間での計算を有限次元空間で厳密あるいは近似的に行う方法について議論した. ハンケル特異値の計算に関しては,むだ時間特性を一般化した全域通過特性をもつ伝達関数がつくるシフト不変部分空間の直交補空間上において,ある有限次元システムとそれに双対な有限次元システムを連立させて解く方法を提案し,連立システムの係数行列となるハミルトン行列を用いた特異値の計算公式を導いた. 複数の制御仕様を満足させる多目的制御に関しては,無限次元線形計画法を用いる手法を考察している.線形計画法を無限次元空問で考えることにより,時間応答制約,周波数応答制約や,ノルム制約で表現できる制御仕様を取り扱うことができる.無限次元線形計画問題に特有な現象として,主問題と双対問題の最適値が異なる場合がある(双対ギャップの存在).本研究の成果としては,双対ギャップを生じないように有限次元空間で双対問題を近似する方法を新規に提案したことにある.これによって,多目的制御の最適解を有限次元線形計画問題を用いて,任意に望む精度内で近似的に計算できるようになった.
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