研究概要 |
本研究は,従来までにほとんど研究の存在しなかった山地河川の中規模河床波に関して実験と解析を試み,その形態・発生条件・機能を明らかにすることを目的としてきた.山地河川に広く認められるタルボット型粒度分布,ならびにこれからはずれる非タルボット型粒度分布の砂礫河床を対象に研究を進めた結果,以下の重要な成果を得ることができた. 1.粒径を10分割した流砂―流れ系に関する線形不安定解析により,急勾配混合砂礫流路には有意な二つの振幅成長率解が存在し,一つは交互砂州発生にかかわる河床不安定に対応し,他は砂礫粒度分布の波動にかかわる分級不安定に対応することが明らかになった.両者のいずれが支配的になるかは,無次元掃流力・幅水深比・勾配などの水理量の違いによっている.これらの結果を発生領域区分図としてまとめた. 2.河床不安定によって生ずる山地河川交互砂州は,波長の統合化によってしばしば沖積河川交互砂州の3倍の波長を示す.また,これらの砂州は,通常礫列・礫段などの小規模波が発生しない非タルボット型粒度分布河床においても成長し,その場合に限り流れの集中化を生みこれら小規模波の発生をもたらす. 3.分級不安定が卓越する場合,河床はほとんど平坦であるが,大粒径礫のたまりが交互砂州波長のおよそ1.5倍の間隔をもって左右岸にそって交互に現れる.こうした交互分級波は無次元掃流力が大きな場において生じ,礫のたまりは下流側へ進行する. 4.二つの中規模河床形態における流砂量特性には,際立った違いが認められない. 5.中規模河床波と小規模河床波の重なりによって自然渓流に見られる淵・瀬に非常に似た形態が生ずる.この形態を人工的に造り出すことにより,魚道への応用をはかり得る. 6.急勾配混合砂礫流路に洪水を想定した大流量によって規模の大きな複列砂州を発生させ,その後に小流量を通水すると,山地河川においてしばしば認められる網状流路が生じ同時に中規模河床波,小規模河床波の発生が生じて,実際の山地河川流れに酷似した状態を造り出すことができる. 7.大規模河床波および分岐・合流流路は,流砂量の空間分布に大きな影響をもたらし,末端流砂量を推定する上でも無視し得ない.
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