研究概要 |
本研究目的は,扇状地河川の河相相互作用系の仕組みと土砂供給・流況変化に対する応答性状を明らかにし,河相の変質の予測と回復に役立てる事である.本年度の成果は以下の通りである. ・土砂供給・河川流況の違いによる河相応答の相異 同程度の勾配・計画流量を持つ二つの河川(安部川と手取川)がもつ河相の違いについて,上流域のダム等の有無,流況の経緯,土砂供給の特性を観測資料等によって把握する一方で,航空写真から画像解析によって植生域の経時的な変遷を量的に捉えた.その結果,河床低下傾向にありかつ樹林化の著しい手取川ではダム建設後,大洪水の頻度減少により植生域が固定し,比較的大きな洪水後も植生域面積が減少しにくくなった.植生の成長と破壊のモデルを考案し,これと流れ・流砂の数値解析を組み合わせることで,このような洪水頻度の減少による河道樹林化の進行過程を表すことができた.さらに,ダム等の建設による河相変化の予測を,この方法を用いることで,回復の数値目標設定などへの応用が期待される. ・生息環境の水理学的評価手法の開発 河川環境保全機能における河川水理学の貢献は生息環境評価にあるが,本研究ではIFIM/PHABSIMを基礎とした評価手法を発展させた.特に移動床水理学的なアプローチと,生物の各生活ステージ(定位.摂食,産卵,避難)における各ハビタート空間分布の互いの空間連続性を考慮したモデルの考案により,季節的な流量変化や平水→洪水という中での生物の移動にまで踏み込んだ評価にまで発展させた.このモデルは流況変化による生息環境の変化だけでなく,洪水の頻度の変化に伴う地形変化による生息環境変化の予測へと発展させることができる. 来年度は,人的インパクトが河相変化全体のプロセスに与える影響を総合的に検討し,代替シナリオ(貯水池土砂排砂,人工洪水等)を作成し,これらの成果を組み込んだ量的な基準づくりを目標とする.
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