昨年度は、前浜砂層内への浸透流を含めた斜面上の波動場を、非線形長波方程式を基礎方程式とした数値モデルによって解析したが、遡上波先端では数値解析特有の擾乱を完全に除去することができなかった。そこで、本年度はCarrier-Greenspanによる斜面上の有限振幅重複波の解析解を用い、さらなる考察の精密化を行った。 この理論から得られる水粒子運動を外力としたときの斜面上の単一砂粒子の運動を、運動方程式に基づきラグランジェ的に追跡し、波打ち帯の漂砂運動の特性を考察した。特に、波打ち帯では干出と没水を繰り返すため、砂粒子は遡上波先端の到達とともに大きな慣性力を受けるとともに、部分的に水中浮力の影響を受け、砂粒子は特異な運動を行うことが明らかになった。さらに、遡上した水塊の砂層地盤内への浸透や、引き波時の砂層地盤からの滲出流によって、砂粒子の運動が大きく影響を受けることも明確となった。 前浜の地形変化を定量的に記述するには、前述のラグランジェ的な表現より固定空間座標上のオイラー的な漂砂量を求める必要がある。そこで、前述の理論解に基づく水粒子運動を外力としたときの一様勾配斜面上の局所掃流漂砂量をKobayashiの理論で計算し、波打ち帯の海岸地形変化を考察した。砂粒子の粒径や斜面の勾配・波の諸元を系統的に変化させた計算を行い、漂砂量の変化特性を検討した。砂層地盤内への浸透を考慮しない場合には、漂砂はすべての条件下で沖向きとなり、一部の条件では現実的では無いことが判明した。浸透流を考慮した場合の漂砂量の結果は、昨年度すでに数値計算によって考察し妥当な結果を得ているが、理論解を用いた場合には浸透流をこの理論と整合的に組み込むには現時点では至っておらず、今後の課題としたい。
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