下水汚泥からのヒ素の溶出に関しては、汚泥中のヒ素は汚泥のpHを低下あるいは上昇させると溶出するが、アルカリ側の方が溶出量が多く、pH9でほぼ80%以上、pH11では95%以上、24時間で溶出することを示した。アルカリ側では、ヒ素の溶出量と鉄、アルミニウム及び有機物の溶出量との相関が高く、汚泥中でこれらの物質と共存しているヒ素が溶出すること、溶出したヒ素のHPLC-ICP-MSによる形態分析結果より、汚泥から溶出するヒ素の形態は低pHでは3価のヒ素が、アルカリ側では5価のヒ素が主であり、有機態のヒ素の溶出は僅かであることが分かった。さらに、溶出液中のヒ素の形態は平衡状態でのpHと酸化還元電位に依存していることを示し、溶出液中では3価のヒ素の酸化は比較的容易に起こるが、5価のヒ素の還元は生じにくく、溶出液中からヒ素を水酸化鉄あるいは水酸化アルミニウムと共沈・除去するには有利であることが分かった。また、酸性側では第2鉄あるいは鉄酸化細菌を添加するとヒ素の溶出量は単にpHを低下させた場合より有効であることを示した。これは第2鉄あるいは鉄酸化細菌が汚泥中に存在する硫化物態のヒ素化合物中の硫黄を酸化し、その結果としてヒ素が溶出するためと考えられた。 下水汚泥焼却灰からのヒ素の溶出に関しては、下水処理場内に存在したりあるいは生成する不要物を利用した手法の開発を試みた。まず、下水汚泥中には硫黄酸化細菌が存在することを確認した。焼却灰(固形物濃度2%)に下水汚泥から分離・培養した硫黄酸化細菌を添加し、その基質として消火ガス中の硫化水素の脱硫過程で生成する廃棄物(10g・wet/L)中の硫黄を、無機栄養塩類として塩素消毒前の下水処理水を利用して、焼却灰のpHを低下させてヒ素を溶出する手法を回分実験により検討した。その結果、30日間でpHは2以下に低下し、ヒ素は80%以上溶出できることが分かった。さらに、この手法の可能性を半連続実験により検討した。その結果、焼却灰濃度20gD.S./L、廃棄物濃度20gW.T./Lで滞留時間を10日以上にすれば、pHは1程度に維持でき、ヒ素の溶出率は80%以上になり、焼却灰から連続的にヒ素を除去できることを示した。
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