環境中の農薬の動態は微生物の生息場所や生息条件等の影響も受けるもので様に扱うことは難しいが、ある時点における環境中の農薬濃度は、農薬分解菌による作用のほか、フミン質への吸着と微生物によるフミン質の分解の三者の関係によって決まると考えれば、フミン質を中心に据えた環境中での農薬の動態を記述することができるのではないかと考えている。 本年度は昨年に引き続き、フミン質への農薬吸着についての検討をおこなった。水への溶解度が異なる農薬を用い、弱塩基性陰イオン交換セルロースを媒体として使用する方法により、タイプの異なるフミン質への吸着ならびに脱着に関する検討を行なった。実験より求められた分配定数は農薬の溶解度とよい相関性があり、それが小さい農薬ほど分配定数は大きくなった。また、吸着実験と脱着実験とで得られた分配係数は大きく異なることはなかった。さらに、実験より得られた分配係数はフミン質のタイプによる差は小さかった。これより、フミン質のタイプが異なっても農薬吸着を担う画分、すなわち陰イオン交換セルロース吸着画分、の吸着能には差がなく、土壌の農薬吸着能はこの画分の存在量に依存すると考えられることが指摘できた。また吸着および脱着における分配係数がほほ等しいことは、フミン質のこの画分への吸着に化学的な結合は大きく関与していないことを意味しているとともに、フミン質が農薬のキャリアーとなりうることを実証できたと考えている。
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