研究概要 |
海岸近くに建つRC造建築物では,飛来塩分のコンクリートへの吸着ならびに浸透による塩害が問題となる。本研究では,コンクリート中での塩化物イオンの移動現象を,セメント硬化体の細孔溶液中での濃度拡散による移動現象と,塩化物イオンがセメント硬化体の細孔中で細孔壁に固定される現象とを組み込んだ拡散方程式によって説明することを試みたものである。そのために,各種の水セメント比のセメントペーストを各種の濃度の塩水に浸漬して塩化物イオンを浸透させ,セメントペーストの表面からの深さ方向の全塩分の分布および細孔溶液中の塩化物イオン濃度の経時変化を測定し,セメントペーストに固定化される塩化物イオン量および細孔溶液中の自由な塩化物イオン量の関係,固定化される塩化物イオン量の限度などを求めた。その結果は,次のようにまとめられる。 (1)セメントペーストの表面では,水セメント比の小さい方が塩化物を引き寄せる力が強く,表面付近では全塩分および細孔溶液中の塩化物イオン濃度ともに高くなる。 (2)セメントペーストの内部では,水セメント比の大きい方が塩化物イオンが容易に拡散し,全塩分および細孔溶液中の塩化物イオン濃度ともに高くなる。 (3)固定化される塩化物イオン量は,ある限界までは細孔溶液中の塩化物イオン濃度に比例する。 (4)細孔容積に対する細孔壁表面積の比が大きいほど,すなわち水セメント比が小さいほど塩化物イオンを固定化する率は高くなる。 これらの測定結果をもとにセメントペーストへの塩化物イオン浸透過程の数学モデルを構築した。
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