鉄筋コンクリート造建築物の損傷限界の設定に資するよう、曲げ降伏が先行する柱の水平耐力と軸方向耐荷能力の劣化の関係、およびそれらの修復性について構造実験により調べた。実際の設計において十分なせん断余裕度を確保するのが難しい場合を想定し、曲げ降伏後の塑性変形能力が比較的小さく、部材角R=1/80rad程度でせん断による耐力低下を生ずる柱を実験対象とした。試験体は形状、配筋、材料を同一とする5体で、断面寸法b×D=300×300mm、内法高さ=900mm、シアスパン比=1.5、全土筋比=1.77%(8-D16、SD345)、帯筋比=0.60%(2-9φ@70、SR235)とした。コンクリートの設計基準強度はFc=24N/mm^2を想定した(材齢28日の実強度:25.5N/mm^2)。水平加力は定軸力0.2σ_B下で、片振幅R=1/800radずつの逆対称曲げ静的正負漸増繰り返し載荷とし、正負の水平耐力の平均値が最大耐力時、80%低下時、60%低下時、および20%低下時まで加力し、残留変形を修正した後、軸方向載荷を行い残存軸耐力を捕捉した。その結果、最大水平耐力以降のせん断劣化過程において、軸耐力は中央部のせん断ひび割れ発生とともに急激に低下し、その後水平耐力の低下比率に対して比例的に減少する事がわかった。この軸耐力の劣化現象は、筆者らの既往の研究によりせん断劣化の生じない柱では曲げ塑性解析の応用で予測できたのに対し、せん断劣化を伴う場合は解析の予測値を下回って減少した。水平耐力が80%に低下した試験体のせん断による損傷をエポキシ樹脂注入により補修した場合、水平耐力および軸耐力を完全に回復することが可能であった。
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