平成11年度は、人口の年齢構造の変化をべースとした「居住状況変化モデル」を作成するための基礎として、首都圏を対象に圏内の居住地移転の構造に関する住宅統計調査のデータを用いた統計的な分析を行った。その結果、(1)平成元〜5年の間における移転世帯数の増加は主として第2次ベビーブーム世代の住宅市場への登場という人口の年令構造の変化によるものであり、住宅市場の底流となっている傾向は定住化の進展であるので、今後の居住計画では長期的な観点から「定住」を前提として政策を考えていく必要があること(2)入居先住宅の選択においては持家から借家へのシフトが安定した傾向として見られるので、居住計画においては賃貸住宅の適切な位置づけが重要であること(3)地域別には郊外部の比重が高まっており、高齢化の波はしだいに都心部から郊外部に及んでいくことになると予想されることので早めに郊外部における高齢者対策を考えていく必要があること、等が得られた。また、高齢化と並んで大きな社会問題となっている少子化についても居住状況との関連分析を行った結果、(1)世帯の出生状況を大きく規定している要因は「結婚時期」や「共稼ぎ」といった人口学的・社会経済的要因であるが、居住状況もかなりの影響力を有しており、出生率の回復のためには「居住の安定感の確保」が重要であること(2)世帯の出生率に与える各種要因の影響力は第1子出生の場合に最も大きく、第1子の出生をしやすくする環境を整備することは同時に第2子の出生をも促進するという観点から30代前半の世帯に対する施策を充実することが効果的であること、等が得られた。さらに、住宅の再配分に関する基礎的なモデル分析を実施し、既存ストックの有効活用により、新たな住宅建設がなくても世帯の住宅についての満足度はかなり向上することが得られた。次年度はこれらの結果を踏まえて「居住状況変化モデル」の具体化を図ることとしている。
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