本研究は、東アジア地域(中国・台湾・韓国・日本)における歴史的環境保全制度の変遷と現状について比較分析し、互いの特徴などを考察することを目的としている。東アジア地域の歴史的環境保全行政の展開状況を概観すると、意外にも日本がかなり早い段階で歴史的環境保全行政に取り組んでいることがわかる。日本の保全法制は、日本統治時代において朝鮮と台湾において関連法が新規制定されるあるいは適用されることとなり、両者ともに日本統治時代に初の近代法制が整えられたのである。ただし、その一方で、同時代には、都市開発事業の展開などに伴い地域固有の自然環境や歴史的環境を壊してきており、このことは、日本が二度とは繰り返してはならない反省すべきことである。戦後も、韓国と台湾においては、ともに歴史的環境保全制度を整えるにあたり日本の文化財保護法などが参考にされ、包括的法制や重点保護主義などの日本の保全法制の特徴が、両者にもたらされることとなった。1999年に台湾中部で起きた2度の地震は、中部地域の歴史的建造物や町並み、集落などに大きな被害を与え、震災後の様々な問題改善に向けて、日本と台湾の民間団体や専門家が互いに交流するなど、新しい経験交流も生まれてきている。中国は、日本、台湾、韓国とは異なる社会制度下を歩んだため、日本の保全制度が直接的な影響を与えてはいない。歴史文化名城制度は、都市スケールで都市構造の保全に取り組むスケールの大きい制度であり、地区スケールの保全を主に対象としている台湾・韓国・日本とは、その点に大きな違いがあるといえる。今後、さらに現状の比較分析を深化させ、相対的な視点にもとづき互いの経験から学びあうことなどを考察していくことが、今後の研究課題である。
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