本年度の調査は、幾つかの特徴のある建築を取り上げて分析を行なった。 [1]指図関係の調査 古代・中世・近世初期の建築が図面として載る史料、「諸堂図」「京都大仏殿図」(いずれも東京国立博物館所蔵)の調査を行なった。両史料には、焼失して現存しない建築の指図、現存する建築の指図が収録されている。 特に、興福寺中金堂図には4手先組物を用いており、それが奈良時代の創建当初から4手先であった可能性も大きいと考えられる。又一方で、比叡山大講堂(焼失)の図面が、焼失前の図面と多少異なっており、江戸時代の指図を全面的に信頼することの危険性も確認された。 [2]朝鮮半島建築との比較 韓国の建築において、14世紀以前の建築から、浮石寺無量寿殿を取上げて、分析した。「意匠は構造の結果」という視点でなく、「積極的な意匠構成」という視点から組物の特徴を探した。桁支え組物における木鼻が表側で統一されており、裏側では様々な異なった部材形式をとること、梁支え組物は二重の肘木(2手先)という手法が見られた。これはこの建築全体に統一して見られるもので、「構造」という視点ではなく、意匠構成が優先したものと判断される、と結論できる。この様な視点から韓国の木造建築を分析する可能性が大きく開けたと考えられる。
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