本研究は、日本の建築において特徴的な、軒を支える組み物を取り上げて、その形式分類を試み、さらにその意味を検討したものである。 1.日本の組物のさまざまなバリエーションを把握した。古代に中国大陸から軒を支える方法として組物が輸入された。次に、組物の手先の大小が建築の高級-低級を示す指標となった。2.中世には、新しい形式の組物が多様に展開した。中世には、構造が発達し、組物は全面的に荷重を受けることがなくなったので、ある程度自由に以前とは違う組物をつくることが出来るようになった。中国から大仏様、禅宗様という新しい建築様式が輸入され、古代以来の組物のルールから外れる要素が入ったことが大きな刺激となった。3.外側の組物表現と、内側には矛盾があって、そこから組物のデザイン論理が把握できる。本来組物は、外部の部材が内部に引き込まれて、外側からみても内側から見ても、同じ組物であるのが原則だった。しかし中世では、外観において用いたい組物形式があり、内部でそれが都合が悪いとき、別の組物形式を作るようになった。これは、建築の外部と内部において、相互に自立した形式を採用することが出来るようになったことを意味する。4.今回開発した方法を適用すると、日本の全時代における組物の性格について、その特質が把握できる。近世において、三手先という最高級の組物が外観表現として、再び頻繁に用いられるようになることも、構造と完全に切り離れたためと理解できる。また、中国と朝鮮半島という木造文化圏の建築についても、同様に組物の特質が把握できると見られる。以上を要するに、組物の検討を通して、木造建築における外部表現の意図を明確に読み取ることが出来るのである。
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